『安藤昌益からの贈り物 石垣忠吉の物語』
安藤昌益の晩年を明らかにした二井田資料の発見者石垣忠吉の物語である。プロローグにこうある。《二井田資料から窺い知ることのできる安藤昌益は、温厚そうな、ごく普通の田舎親父像だ。烈しい革命家でもなく、高邁な哲学者でもない。彼、孫左衛門は医者としての見立ての確実さで村人の信頼を集め、預言者的な不思議な魅力によってカリスマ性を発揮する。あるときは村人独特の猥談で人を笑わせ、その猥談にも理屈のあることを語ってみせる。人はみな平等でなければならないと語り、自己中心主義的行為に激しい嫌悪の情を示す。こうした昌益の姿はあるところで石垣忠吉と重なって見える。昌益と同じようにさまざまなことを独学で習得し、すべての人に差別なく真剣に向き合う。自己中心の考え方に、ことのほか抵抗し、人間の真実を見つめようとする。その忠吉が昌益の足跡を捜し当てたのだ》。安藤昌益という人はきっとこんな人だったのかもしれない、石垣忠吉という人について、たしかにそう思わせられた。何よりもその夫婦の関係についてである。恥ずかしながらドキドキさせられつつ読み終えた。

この記事へのコメント